日本の大地で培われて来た日本人の感性を原点とするデザイン創造集団


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「日本の床の生活歴史」    

written by 丸谷博男

 日本の床、とくに靴を脱ぐという行為にはたくさんの意味が含まれています。
 土足、あるいは下履きと上履き、外履きと内履き、下足と上足、これらの言葉には色々なニュアンスが含まれていそうです。
 靴を履いているのは外の生活、靴を脱ぐのは内の生活。というように靴を脱ぐという行為は外界との間には大きな境や結界を持っています。来客に対して、下足を脱がせるのか、下足のままで応対するのかは、まったく姿勢や扱いが違います。家に招き入れるという行為は特別なのです。他人ではないという意味があるのです。
 さてここで、日本の住まいの「床」というものを改めて見直してみましょう。

■ 床=板床or 畳床
 人類の生活に板床が現れるのは、横穴住居から縦穴住居、縦穴住居から高床住居と変遷する中で高床が出現します。はじめは居住のための建物ではなく食料品の保存庫としての倉庫建築でした。高倉は周囲が吹きさらしになっていましたので人間が住むには適さなかったのです。縄文時代も高倉と竪穴住居が併存しましたが、人々はけして高床には住みませんでした。その期間は一万年もの歳月になります。土間は、夏涼しく冬温かかったからです。動物たちが冬に縦穴や横穴に冬眠するのは、地熱の恩恵を受けるためだからなのです。
 平安時代になって、板床の上におく敷物として畳が現れます。板床に人々が暮らそうとすると断熱性のある敷物が必要となったのです。そしてその内に、畳は敷き詰められるようになり、畳床が誕生するようになります。その結果、板床と畳床が一軒の家の中で使い分けられて行くことになります。基本的には、部屋は畳床、廊下は板床として使い分けられて行きます。
 それは生活様式の変遷とも一体的に変化して行きました。つまり、「座る」「居る」「寝る」という行為は畳の上、移動のための「歩く」ところは板の上でということとされていったのです。
 また、土間というものが外界と板床との間に存在しました。現代ではずいぶん狭くなってしまっていますが「玄関」がそれに当たります。一昔前までは大きな土間がありました。それは屋内の作業空間でした。台所も土間で行われて来ました。

■ 畳床での生活
 日本の生活様式は畳の上で培われて来たと言えます。毎日の食住、祭事、礼儀作法、さまざまな習慣と感性がそこで培われました。座位と立位の目線の違いにも礼儀が伴っています。座っている人に立ったままで挨拶するのは失礼ということもその代表的なものです。目上、目下という言葉もそうですね。
 現代でも板床はスリッパで歩くけれども、畳床はスリッパを脱ぎ素足で歩く。ここにも培われて来たものの考え方があるのです。
 畳床の時代には、不思議なことに生活のための収納家具は大変少なかったのです。押し入れ、天袋、地袋などの造作家具、水屋、茶箪笥という置き家具、座卓。和室の家具は本当にシンプルでした。

■ 洋間を生活に取り入れる
 明治時代になって文明開化が始まる。西洋式の生活は板床の上での椅子座の生活でした。
本来は下足での生活でしたがそれだけは取り入れることができませんでした。ここで、日本独特の畳床と板床が同居する住宅が発展して行くのです。畳床の生活にはなかった食卓、応接家具、洋服タンス、和タンス、食器棚、机、本棚など多彩な家具が住宅内に現れてくるのです。この流れが現代の住宅の様相となっているのです。
 板床の流れには次のような流れがあります。江戸時代以前の床板は移動やもの入れの場所になっていましたのでほとんどが加工し易い杉、桧、松などの針葉樹が使われていました。洋室が入って来た時には土足や椅子や家具を使うという問題がありましたので硬質のナラ、ブナ、チークなどの広葉樹が使われました。これは現代にも通じています。
 ところが、最近の環境共生という考え方から、「里山の木を使う」「人に優しい素材」など再び針葉樹の床材が復活しつつあります。断熱性が高く、座しても、寝転んでも広葉樹に比べて痛くない針葉樹が徐々に使われ始めるのです。

■これからの床は多種多彩
 冷たかった板床も、床暖房が可能になることで扱い方が大きく変わって来ました。また、断熱性能があがってくると家の中に冷たいものはなくなってしまいます。かつては冬の床下には冷たい外気が流れていたのですから仕方なかったと思います。
 現代は、床材が自由自在に選択できる時代です。また、樹種も国際色豊か、多種多様の模様や質感が考えられる時代になっています。適材適所の原則だけではなく、遊び、趣味、異国情緒、芸術表現、こうした床の生活文化をあらためて見つめて行く時代ともなっています。
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by j-sense | 2007-10-14 10:53 | ■「北のデザイン」研究会