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“マイホームプア”からの脱却 「200年住宅ビジョン」の中身を検証する

[ 2007年9月12日 ]住宅コンサルタント 平賀 功一氏

 自民党は今年6月、超長期住宅の実現を目指す「200年住宅ビジョン」を策定・公表した。その内容は「環境負荷と住宅コストの軽減」「流通市場の改革」「新たな住宅金融システムの構築」など、12の政策提言から構成されており、安倍政権が掲げる“美しい国づくり”へ向け、住宅システムの再構築が進められることとなった。しかし一方では、従来からある議論の寄せ集めにすぎず、目新しさに欠けるとの指摘もある。はたして、200年住宅は誕生するのか、同政策の内容を検証してみる。

■「ワーキングプア」ならぬ「マイホームプア」な日本の住宅環境
 「日本の住宅は貧しい」……こう言われるようになって、一体どれくらいの年月がたつのだろうか? 「犬小屋」と揶揄(やゆ)される居住面積の狭さ、住宅ローンを返し終わったと思ったら建て替え時期を迎える短命な住宅寿命、さらに、一人暮らし老人の孤独死や経年マンションのスラム化など、“貧しさ”を象徴する事例は枚挙にいとまがない。GDP世界第2位の経済大国が抱える住宅事情の貧しさは、これほどまでに根の深いものとなっている。

 そこで、こうした現状を打開すべく06年6月に住生活基本法が施行、超長期にわたって循環利用できる質の高い住宅ストック(=200年住宅)の形成が政策理念として打ち出された。“マイホームプア”からの脱却が、ようやく具体的な目標となったのだ。実は今回、策定された「200年住宅ビジョン」もその中身は住生活基本法を踏襲している。以下、「200年住宅ビジョン」の中身を順を追って見ていくことにしよう。

■200年住宅ビジョン 12の政策提言
<提言1> 超長期住宅ガイドラインの策定

 一口に「住宅」といっても関連する産業は幅広い。そのため、各業界が単独で200年住宅を目指しても、行き着く先には限界が見えてしまう。そこで、建築・維持管理・流通にかかわるシステムを連携した一体の社会システムとして再構築する必要が叫ばれており、そのためには国民・住宅関連事業者・国・地方公共団体などが200年住宅に対するイメージを共有することが不可欠となった。そこで、超長期住宅に関するガイドラインを策定することで、目指すべき方向性を統一しておこうという狙いだ。

<提言2> 家歴書の整備

 家歴書とは、新築時の設計図書や修繕履歴・定期点検の結果などを記録した履歴簿のことをいう。情報の蓄積により、リフォームあるいは点検・交換が適切に行なわれることが期待され、また、家歴書の整備により使用建材や設備・施工業者名などもデータベース化されるため、災害あるいは事故が発生した際、迅速な対応が可能となるメリットもある。

<提言3> 分譲マンションに対して、新たな管理方式・権利設定方式を構築する

 現在、分譲マンションを取り巻く環境は芳しくなく、経年にともなう建物の老朽化、居住者の高齢化・賃貸化といった多くの課題を抱えている。そのため、管理組合運営が正常に機能せず、適切な維持管理が十分に行えない状況に直面している。そこで、管理組合の理事長を管理者とする現在の管理方式に加え、マンション管理業者を管理者とする管理方式を新設。知識も経験も豊富な管理業者主導による新方式を取り入れることで、直面する課題に対処できるセーフティーネットを構築する。

<提言4> リフォーム支援体制の整備、長期修繕計画等の策定、リフォームローンの充実

 建物を長持ちさせるためには、適時・適切なリフォームや大規模修繕が欠かせない。そこで、インターネットによる情報提供や相談窓口を設け、消費者が安心してリフォームや修繕が行えるように、支援体制面・融資面での基盤整備を行なう。

<提言5> 既存住宅の性能・品質に関する情報提供の充実

 これまでにも品確法による既存住宅の性能評価、あるいは民間の検査機関による独自の性能評価制度はあった。しかし、その精度にはバラツキがあり、必ずしも客観性を伴った内容ではなかった。そこで、簡便かつ一定の客観性を担保した「既存住宅の評価ガイドライン」を策定し、買い主が安心して住宅を購入できる流通システムを確立。もって、中古住宅市場の活性化を目指す。

<提言6> 既存住宅の取り引きに関する情報提供の充実

 日本の住宅政策は、これまで「新築住宅」主導で行なわれてきた。そのため、中古住宅の情報提供は二の次とされてしまい、そのことが既存住宅の流通規模を縮小させる要因となっていた。そこで、取引価格を中心に情報提供を積極化して、価格形成の透明性を確保し、中古住宅の売り主・買い主どちらにも“やさしい”流通システムの充実を図る。

<提言7> 住み替え・二地域居住の支援体制の整備、住み替えを支援する住宅ローンの枠組み整備

 マイホームに対する価値観やライフスタイルが変化したことで、個人の居住ニーズも多様化した。郊外の庭付き一戸建てをゴールとする“住宅すごろく”は、必ずしも万人に当てはまらなくなった。そこで、柔軟な住み替えや二地域居住(都心と田舎にそれぞれ自宅を所有して行き来する居住形態)を支援する仕組みが新たに必要となり、就労に関する情報提供あるいは住み替えを円滑化させる新型住宅ローンを整備し、多様化する住宅ニーズに対応できるよう準備を進める。

<提言8> スケルトン・インフィル住宅を支援するための住宅金融などの枠組み整備

 スケルトン・インフィル住宅とは、建物の躯体(くたい=S:スケルトン)と内装(I:インフィル)を分離した設計構造の住宅をいう。マッチ箱をイメージすると分かりやすいだろう。このSI住宅、200年住み続けられるだけの構造的要件は兼ね備えているが、他方、200年の間に所有者が何人も変わることを考えると、住宅ローンの組み方も従来のままでは対応不十分となることが想定される。そこで、SI住宅にふさわしい住宅金融のあり方が模索されており、これまでとは異なったユニークな住宅ローンの検討が必要となっている。

<提言9> リバース・モーゲージが提供される仕組みの構築

 リバース・モーゲージとは、マイホームを担保に融資を受け、借入者の死亡時に当該住宅を処分・換金して残債を一括返済するローンのこと。200年住宅が普及すれば、住宅の所有者が住宅より短命になることは十分想定される。そこで、高齢になっても安心して住み続けられるよう、新たな収入源を確保する手段としてリバース・モーゲージの活用を積極化していく考えだ。

<提言10> 200年住宅における税負担の軽減

 住宅は生活の基盤だけに、税負担は無理のない範囲での課税であることが望ましい。そこで今後、「社会的資産」となる200年住宅の税負担に関し、住宅税制全般に立ち返ってその在り方を整理・検討するものとする。

<提言11> 200年住宅の実現・普及に向けた先導的モデル事業の実施

 日本の住宅市場において、200年住宅はこれまで経験したことのない新たな試みとなる。それだけに、一般普及への実現性を事前に検証しておく必要がある。そこで、テスト的な意味合いで先導的モデルプロジェクトを実施し、200年住宅ビジョン成功への道筋をつける。

<提言12> 良好な街並みの形成・維持

 マイホームは、その地域との調和・共生なくしては存在しない。200年間も住宅価値を持続させるためには、なおさらだ。そこで、良好な街並みの形成・維持には官民一体による取り組みが欠かせず、各種の規制・誘導制度が必要となる。今後、そのための基盤整備を提言し、枠組みの確立を目指す。

■価格形成プロセスの透明化・情報公開化が必要不可欠
 以上、12の提言を順に説明した。「環境への配慮」「建築システム」「住宅流通」「維持管理」「住宅金融」「基盤整備・街並み」といったポイントを一通り押さえ、全体としてまとまりのある内容に仕上がっていると感じた。しかし、「どうやれば建物を少しでも延命させることができるか?」といった視点を中心に策定されているせいか、「取得のしやすさ」という議論が不十分であるように思えてならない。生涯収入の大部分を費やさなければならないマイホーム購入において、「買いやすさ」への考慮なくして豊かな住生活の実現はあり得ない。

 ここでいう「買いやすさ」とは、価格設定が適正であるということと同時に、きちんと情報公開されていることを意味する。ようやく既存住宅はインターネットなどでも取引価格が調べられるようになったが、新築住宅に関しては今もって「販売直前まで価格未定」という状況が蔓延している。しかも、参考客には価格表の請求すら拒む。このような販売価格を“隠したがる”風土は、今後、改善されなければならないだろう。そこで、ぜひとも価格決定権を売り手側だけに温存させず、買い手側にも付与するようなモデル構築(たとえばオークション制度の導入など)を“13番目”の政策提言として追加してもらうことを願う。「質の高い住宅ストック」の条件として、「買いやすさ」を忘れてはならない。

e住まい探しドットコム(http://www.e-sumaisagashi.com/)代表
ネットを中心に公平・中立なスタンスで「失敗しない住宅選び」のための情報発信を行う。
日経住宅サーチ「マンション管理サテライト」でも連載中。
ファイナンシャルプランナー 宅地建物取引主任者
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by j-sense | 2007-09-16 11:24 | □300年住宅